Pediatric Cardiac Surgery
心室中隔とは、心臓の4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)のうち、右心室と左心室の間を隔てる筋肉の壁に欠損(あな)が開いている状態です。先天性心疾患のなかで心室中隔欠損(VSD)は最多の疾患とされています。
動脈管とは、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる時、肺動脈から大動脈への抜け道になっている血管のことです。赤ちゃんが生まれてから肺で呼吸をしはじめるとこの抜け道がなくなり、生後2~3週までに完全に閉じますが、自然に閉じずに残っているものを動脈管開存症といいます。
胎生期の心内膜床の発育不全によって心臓の中心部構造である房室接合部(心房と心室の間の房室弁とここに近接する心房中隔・心室中隔)に生じる形態異常です。共通房室弁口遺残や心内膜床欠損症とも呼ばれることもありますが、現在は名称が統一されています。先天性心疾患の約3%にみられます。
「心室中隔欠損」「肺動脈狭窄」「大動脈騎乗」「右心室肥大」の4つの特徴をもった先天性心疾患のことです。
すべての肺静脈が左心房には還らずに、上大静脈、門脈、右心房など体静脈に還流している先天性心疾患です。多くの場合、乳児期早期よりチアノ-ゼ、心不全を来し、肺静脈が体静脈に合流する部位が狭くなっているものは、早期の外科治療が必要です。
心室中隔欠損症は、左右の「心室」を「隔てる」壁に「欠損」がある(穴が開いている)病気で、出生1000人あたり2~3人程度に発生し、先天性心疾患の約20%を占める最多頻度の疾患です。
当院での手術総数は、府中移転後の2004年以降、国内トップクラスの1444例となっております。乳児期(1歳未満)の症例も816例(56.5%)に及びます。
手術時間は平均105.7分であり、短時間の手術が当院の大きな特徴です。
手術死亡は0例で、再手術介入も4例(0.2%)、代表的な合併症である房室ブロックによるペースメーカー挿入も2例(0.1%)と、安定した成績を残しています。
心房中隔欠損症は、左右の「心房」を「隔てる」壁に「欠損」がある(穴が開いている)病気です。先天性心疾患のうち大体7%程度を占めています。
現在はカテーテル治療で閉鎖できる事も多いですが、穴の形態や合併疾患などで手術の適応となる事も少なくありません。
当院小児外科チームの手術総数は府中移転後の2004年以降、755例に上ります。小児期を超えて手術になることもあり、当院でも小児・成人チームの双方で協力して治療にあたっています。手術時間は最短で42分と、短時間での手術も当院の大きな特徴となります。手術死亡は0例で安定した成績を残しています。
成人外科チームでも、右胸部の肋骨の間から手術を行う小切開手術(MICS)手術を数多く行っています。(府中移転後の2004年以降の成人外科チームでの手術総数:329例)頸部の静脈と、右・または左脚の付け根の動脈・静脈に管を挿入して人工心肺に接続します。
同時手術としては不整脈に対するMAZE手術や、冠動脈バイパス手術などがあり、成人期特有の疾患に対しても同時に治療しており、小児期から移行後も継続した医療を提供しています。
項目 | 件数 |
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手術総数 | 410件 |
On pump | 311件 |
Off pump | 28件 |
項目 | 件数 |
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手術総数 | 452件 |
On pump | 330件 |
Off pump | 30件 |
項目 | 件数 |
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手術総数 | 553件 |
On pump | 398件 |
Off pump | 36件 |
項目 | 件数 |
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手術総数 | 535件 |
On pump | 384件 |
Off pump | 44件 |
項目 | 件数 |
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手術総数 | 559件 |
On pump | 369件 |
Off pump | 60件 |
私たちの治療の基本方針は、「手術を受ける子供たちの低侵襲化を第一に考える」、ということです。
小児の心臓手術の多くは、心臓を止めて、心臓の内部を治します(開心術)。この間、全身の酸素供給を行う為に、心臓と肺の代わりをしてくれる「人工心肺」という大掛かりな装置を使用します。
「人工心肺」は大きな進歩を遂げ、より安全に心臓手術を行うことが可能になりつつある一方、心臓や肺の代わりを機械にさせるという非常に特殊な環境は、特に小さな子供において、心臓だけでなく、肺や脳を含めた全身臓器に想像以上の影響をもたらします。従って、目に見えない 侵襲をも考慮し、如何に身体への負担が少ない手術を目指すかが最も重要と考えます。単に手術が順調に終了したから良いとするだけでなく、入院から退院、もしくはその後の学校生活や社会生活における総合的なquality of lifeをも見越した手術を考える必要があります。
現在、新生児から成人まで、年間約500件の先天性心疾患手術を施行していますが、各疾患および個々の患者さんごとに、さまざまな低侵襲化対策を行なっています。
心臓手術では、身体から心臓に戻ってきた血液を心臓に入る直前で人工心肺装置へと誘導し、人工肺で酸素を与え、心臓から身体へ向かう大動脈へと返します。
体外循環中は、血液がチューブなどの異物と接触することにより、白血球やリンパ球が活性化され、さまざまな血管作動性物質を放出します。この物質が全身組織に様々な炎症反応を引き起こします。
したがって、いかにこの炎症反応を抑えるかが「低侵襲」へのポイントとなります。血液が通過する人工肺やチューブ内の容量を減少させ、血液との接触面積を減らすことで、炎症物質を抑えるとともに、血液透析器を用いて、濾過や吸着により、血管作動性物質を除去することが可能であり、この点に関するより優れた装置の研究・開発を日進月歩で取り組んでいます。
傷を小さくすること(小切開)自体がはたして低侵襲と言えるかどうかに関しては多くの議論があります。しかしながら、大きな傷跡は心の傷となる可能性があると考えます。傷が残ることは手術ではやむを得ないことですが、なるべく小さく切開し、精神的負担の軽減を図ること、このような意味では小切開=低侵襲と言って良いと思います。もちろん、手術の安全性の優先が最も重要ですが、子供たちの病気の種類や手術方法に合わせて、最も安全、かつ、小さな切開で行うよう努力しております。
無輸血手術と血液使用量の削減には、輸血が引き起こす問題点の回避という観点から、低侵襲を目指す目的があります。輸血には、ウイルス感染以外にも、血液内の血管作動性物質による非溶血性副作用など、臨床経過に影響を与える問題も多く存在しています。
このためわれわれは無輸血手術が可能な症例では積極的に無輸血に取り組み、輸血が必要となる症例でも、可能な限り血液使用料を削減することに取り組んでいます。
手術は、当然、安全かつ確実に行うことが重要です。しかし、前述したように体外循環は身体に大きな侵襲をもたらしますので、その時間を短縮させることが最も重要となります。一方、手術自体や麻酔そのものも、身体への大きな侵襲の一つです。従って、すべての時間を総合的に短縮させることが、小児心臓外科での最も重要な低侵襲対策と考えます。
心臓手術はチーム医療と言われますが、いかにスムーズでスピーディーな手術ができるかどうか、このことが本当の意味でのチームワークであり、小児心臓外科医が目指すチーム医療と考えております。
心臓手術の低侵襲を考える上で、「最良のタイミングで手術を行う」ということが非常に重要です。近年、内科的治療の進歩により手術の適応は大きく変化してきています。当院では経験豊かな小児循環器科医と連携し、術前の状態の改善を図ることで、より安全に、より積極的に手術の適応を広げるよう務めています。
他施設よりご紹介いただいた患者さん、セカンドオピニオンで来院された患者さんに対しても、不必要にお待たせすることなく最良のタイミングでの手術を提案させて頂きます。
成人された後の先天性心疾患に対する手術だけでなく、小児期に手術を受けられた方の遺残病変に対する再手術が増加しております。
成人期においては、個々の疾患に対する手術手技だけでなく、弁、冠動脈、大動脈疾患の合併手術、不整脈に対する外科治療(Maze手術)や心機能の改善に効果のある両心室ペースメーカー(心室再同期療法)などの複合した手術も数多く取り組むようになりました。成人先天性心疾患手術では、糖尿病などの成人特有の全身性疾患を有することがあり、また、前回の手術による癒着の影響から長時間の手術が必要となることから、手術による合併症の発生が比較的多くなることが予想され、前述した低侵襲化対策が厳密に必要となります。特に、フォンタン型手術およびその再手術においては、再手術前の心機能低下や弁機能不全などを小児科的もしくは内科的に十分に治療し、最適のタイミングで再手術を行うことが、成績向上に最も重要であります。
「成人先天性心疾患」に関しては、「先天性」が専門の小児科が担当するのか、「成人」が専門の内科・外科が担当するのか、ということは現在、全国的にも議論になりつつあります。当院は循環器専門病院として、開院以来、生直後から一生を通じて患者さんのフォローをさせて頂いております。現在、年間約70例を超える成人先天性心疾患手術を施行していますが、我々はこの分野でも長年の多くの経験と専門的な知識に加え、前述した低侵襲対策を十分に行うことにより、非常に良好な結果を得ています。
傷を小さくすること(小切開)自体がはたして低侵襲と言えるかどうかに関しては多くの議論があります。しかしながら、大きな傷跡は心の傷となる可能性があると考えます。傷が残ることは手術ではやむを得ないことですが、なるべく小さく切開し、精神的負担の軽減を図ること、このような意味では小切開=低侵襲と言って良いと思います。もちろん、手術の安全性の優先が最も重要ですが、子供たちの病気の種類や手術方法に合わせて、最も安全、かつ、小さな切開で行うよう努力しております。小切開は後述する手術時間の短縮にもつながります。
手術は、当然、安全かつ確実に行うことが重要です。手術の流れの中には、より確実に時間をかける部分もあります。しかし、総合的にはすべての時間を短縮させることが、以下の理由において、心臓外科での最も重要な低侵襲対策と考えます。
1.前述したように体外循環は身体に大きな侵襲をもたらしますので、その時間を短縮させることが最も重要となります。一方、手術・麻酔そのものも、術後の炎症反応の増加や酸素消費量の増加につながるという報告もあります。実際に、体重3~4kg心室中隔欠損症(VSD)の術後人工呼吸器管理は、体外循環時間だけでなく、手術時間・麻酔時間が長い方がより長期になるという結果でした。最近の麻酔時間は、代表的な病気である、心房中隔欠損症(ASD)や心室中隔欠損症(VSD)が90~120分、ファロー四徴症(TOF)は150~180分と短縮されております。現在まで、長い手術・麻酔が術後臨床経過に与える影響について、正確に評価された報告はありません。しかし、特に、肺高血圧の合併や術前状態の悪い低体重児において、麻酔時間が3~4時間以上であった以前よりは、出血量や強心剤の使用量などを含め、術後の全身の回復がはるかに良いという印象を強く持っています。素早く、安全かつ確実な手術が心臓手術における最も重要な低侵襲対策と考えます。
2.手術のタイミングを考えることも、心臓手術の低侵襲を考える上で重要です。早期に手術が必要との依頼があった場合、現在の手術状況では少し待ってもらわなければならないことがありますし、また、緊急手術となった場合では、予定手術を延期せざるをえないこともあります。しかし、可能な限り、このような状況を避けたいと考えています。中には、待機中に状態が悪化することもありますし、低体重の心室中隔欠損症(VSD)では、術前に人工呼吸器管理が必要となった場合、術後の成長発達に問題が残るというデータがあることがその理由です。個々の子供に合わせて必要な時期にタイミング良くいつでも手術を行える体制が必要であります。このためには、常日頃から、手術・麻酔時間の短縮化を考えておかねばなりません。
3.すべての依頼を断らない、また、子供の状態に合わせた待たせない手術を目指してきましたが、結果として、2004年は435例であり、手術日は365日中250日、内1日2~4例の手術が152日でした。しかし、1日2例以上であっても、多くは夕方17時までに終了できております。少しおかしな話ですが、このことも手術の低侵襲につながっていると考えます。手術・麻酔時間が長く、手術チームが体力的または精神的に疲れてしまうことは、翌日に手術する子供に迷惑がかかることが理由です。僭越ですが、確実かつ素早く手術を行い、私ども医療従事者の手術環境を良くすること、このことも手術の低侵襲化のための大事な方策です。
無輸血手術と血液使用量の削減には、輸血の問題点の回避という観点から低侵襲を目指す目的があります。
1.現在、血液によるウイルス感染という問題は解消されつつあると言って良いかもしれません。しかし、その可能性が完全に回避できない現状において、無輸血手術を目指すこと、もしくは、血液を使用したとしても使用量の削減に努力することは、外科医の重要な責務と考えます。
2.輸血には、ウイルス感染以外にも、血液内の血管作動性物質による非溶血性副作用など、臨床経過に影響を与える問題も多く存在しています。1999年から日本赤十字社からの血液供給体制が変更され、現在では、主に、献血後5日目以降の成分輸血供給となりました。比較的古い血液を新生児や低体重児に使用することの影響についても考えなければなりません。体重3〜4kg心室中隔欠損症(VSD)の手術においては、無輸血とした方が術後の人工呼吸器管理時間が有意に短いというデータもあります。
3.現在の医学では特定できない病原体の可能性もあります。輸血を受けたという将来的な精神的不安を無くすということも重要と考えます。
1994年7月~2004年12月に、人工心肺を用いた無輸血手術の数は2107例で、内1995例(94.7%)において輸血を回避できました。この間、無輸血手術の適応は徐々に拡大しており、1999年以降は、無輸血手術が不可能であった、体重3~4kg心室中隔欠損症(VSD)の低体重児や、胸骨再切開症例、重症チアノーゼ性心疾患の手術(ラステリRastelli手術、フォンタンFontan手術など)においても、90〜95%の子供たちが無輸血で退院できています。無輸血手術では、脳神経系の障害や術後の循環・呼吸動態の悪化、術後治療期間の延長などが危惧されますが、当院では、
1.手術中の脳内局所酸素飽和度の極端な低下や変動を示した症例は無く、無輸血が原因と考えられる脳神経学的異常所見を残す症例は皆無で、遠隔期の精神運動発達も正常範囲。
2.体重3〜4kg心室中隔欠損症(VSD)でも術後の人工呼吸器管理時間は平均5.5時間と短時間であり、術後の循環・呼吸動態は極めて良好でした。現時点において、無輸血とすることが総合的な手術のqualityに影響を与えることは無いと判断しています。
もちろん、輸血は現在の医療において重要な役割を担っていますし、また、無輸血手術には解決していくべき課題も多く存在します。今後とも、無輸血手術の意義について充分に検討していく予定です。