Peripheralvascular Surgery
当院では府中市に新病院を開院したのをきっかけに、循環器領域全体をカバーしようという方針から、2004年4月に末梢血管外科を開設しました。2011年5月には、ハイブリッドOR室の運用が開始され、最先端の血管内治療が可能となりました。さらに、2020年4月からは難治性潰瘍外来が始まり、治療に難渋する足病変にも力を入れています。
当科で主に扱う疾患としては、腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症、閉塞性血栓血管炎(ビュルガー氏病、バージャー病)、急性動脈閉塞症、下肢静脈瘤、下肢静脈血栓症、下肢浮腫(リンパ浮腫)などですが、いずれの疾患も循環器内科、心臓血管外科と緊密な連携をとりながら診察、治療を行っております。動脈硬化度判定やドプラ血流測定、MRI、CTを用いた血管撮影は原則すべて日帰りで行い、血管病変を患者さまに提示しながら診断、治療方針を決定していきます。
腹部大動脈瘤や急性動脈閉塞症などの一部の疾患を除き、末梢血管外科で扱う疾患は慢性疾患が多く、直接生命にかかわらなくても患者さまの QOL(生活の質)を低下させる疾患が多いことが特徴です。治療方針につきましては、納得のいく、十分な説明を行った上で決定していきたいと考えています。
動脈瘤は通常無症状のことが多いですが、破裂する前に発見できれば安全に治療することが可能です。2020年の手術例数116例のうち、予定手術は92例、緊急手術は 24例でした。予定手術のうち、ステントグラフト内挿術は50例、開腹外科手術は42例で動脈瘤の形態や全身状態に応じて術式を選択しています。術後平均在院日数はステントグラフト内挿術 6.8日、開腹外科手術 14.9日でした。手術は成人心臓血管外科のチームと協力しながら行い、術前の全身リスク評価、とくに冠動脈病変の精査は内科と緊密な連携をとりながら行っています。
近年の高齢化や食生活の欧米化等により、動脈硬化のために徐々に動脈が閉塞する閉塞性動脈硬化症が増えてきています。高齢、喫煙、高血圧、糖尿病、高脂血症などが危険因子です。初期には冷感、しびれ感などを自覚することもありますが、最も多い主訴は間歇性跛行(一定距離を歩くとふくらはぎや臀部が痛む)です。進行すると安静時痛や潰瘍、壊死に陥ります。治療については薬物治療、カテーテル治療(バルーン、ステント等)、外科的治療(バイパス等)などがありますが、各種ガイドライン等のエビデンスに基づいて循環器内科と協力しながら行います。
四肢に冷感や痛み、脱力、しびれが急に出現したときは急性動脈閉塞の可能性があります。急性動脈閉塞の原因としては閉塞症、血栓症のほかに外傷、急性動脈解離などがあります。組織の虚血性変化が不可逆的になるとされるのは発症後6~8時間とされており、この時間内に血行が再開されれば救肢の可能性が高いため、診断、検査と初期治療を平行して進め、治療方針の決定を急ぐ必要があります。虚血の程度が軽い場合には、血管造影に引き続いて抗凝固療法や血栓溶解療法が選択されますが、その後に基礎病変が特定されることが多いため、長期開存を得るためには基礎病変を経皮的血管形成術や直達手術により治療を行います。外科的治療は重篤な虚血肢に適応となります。塞栓が患肢の中枢側に存在することが疑われる場合には外科的な摘除を優先します。
本来良性疾患ですので、患者様のニーズに応じて治療方針を決定しますが、夜間のこむら返り、下肢の浮腫や鈍重感、色素沈着や湿疹などの皮膚症状を伴う場合には積極的に治療を受けることをお勧めします。治療としては静脈瘤血管内焼灼術(1470mmレーザー、高周波)や血管内塞栓術(Vena Seal🄬)、静脈瘤抜去切除(選択式内翻ストリッピング)、硬化療法(結紮術併用含む)、医療用圧迫ストッキングの着用などがありますが、まず「病気を知ること」が大切です。当院では下肢血管エコーを行い、病態をくわしくご説明いたします。2020年の手術症例は116肢でその内訳は、血管内焼灼術112肢、抜去切除術4肢で、血管内焼灼術は全て日帰り、抜去切除術は原則1泊2日で行います。手術を希望されない場合には、医療用圧迫ストッキングを処方しますが、着用に際してはストッキングコンダクター講習会認定の看護師が指導いたします。
急に片側の足が腫れてきて痛みを伴うときは静脈血栓症の可能性があります。ただちに抗凝固療法を開始し、下肢のうっ血を改善させるべく下肢圧迫療法を行いますが、発症時期や症状によっては血栓溶解療法や血栓摘除手術が選択される場合があります。静脈血栓が血流によっては肺動脈へ運ばれると、いわゆるエコノミークラス症候群と呼ばれる肺動脈塞栓症となりますので、一時的または永久的下大静脈フィルターの留置が必要となることがあります。診断・治療は循環器内科と協力しながら行います。
脚のむくみはさまざまな原因で起こりますが、先天性以外に心臓や腎臓、肝臓、甲状腺、静脈などの異常が基礎にある場合や手術、放射線治療などの影響、あるいは単に下肢の長時間下垂位が原因となる場合があります。当院では原因を精査しながら、医療用圧迫ストッキングの着用を含めた治療方法をご説明します。
厚生労働省指定の難病(特定疾患)の一つで医療費公費負担の対象疾患です。50歳くらいまでの男性に多く、喫煙が強く関与しています。虚血症状として間欠性跛行や安静時疼痛、虚血性皮膚潰瘍、壊疽(特発性脱疽とも呼ばれる)をきたしますが、閉塞性動脈硬化症との鑑別が重要です。安静時痛や難治性潰瘍を主訴に来院する患者さまが多いようです。治療としては受動喫煙を含め、禁煙を厳守させることが最も大切で、患肢の保温、保護に努めて、歩行訓練や運動療法を基本的な治療として行います。多くは経口抗血小板製剤や抗凝固薬、プロスタグランジンE1製剤の静注などの保存的治療で軽快しますが、ときに患肢の血流増加を期待して交感神経節切除を行うこともあります。