サルコイドーシスは、全身のさまざまな臓器に肉芽腫(炎症細胞が集まってできたしこり)を作る慢性の免疫疾患です。どの臓器が侵されるか、人により異なります。心臓に病変がある患者を心臓サルコイドーシス、さらに、心臓以外には病変が見つからない方を心臓限局性サルコイドーシスといいます。心臓サルコイドーシスは、特に日本人に多く、また、男性より女性に多く見られます。女性の発症は中高年に、男性では20歳代に多いとされています。
心臓サルコイドーシスは比較的珍しい疾患です。また、診断が難しく、しばしば診断されずに長く経過する方がいます。しかし、他の心臓病とは経過や治療が異なりますので、早期に診断をすることが大切です。近年、ガイドラインも整備され、治療法も大きく進歩してきました。
サルコイドーシスの原因はわかっていませんが、何らかの抗原に対する免疫反応によるものと考えられています。人によって発症する原因が異なっている可能性もあります。家族内に集中して発症することはなく、遺伝性疾患ではありません。
サルコイドーシスは人によって侵される臓器がさまざまです。通常は複数の臓器が侵されるため、症状の組み合わせも人によって、さまざまです。
皮膚サルコイドーシスは痛みやかゆみを伴わない、ピンク~赤色の斑状から点状の発疹です。体のどの部位にでも出ることがあります。一つだけ孤立していることも、いくつかが集簇して発生することもあります。自然に消退することもあります。
心臓サルコイドーシスの症状は、その他の心臓病としての不整脈、心不全症状と変わりません。不整脈症状として動悸、失神、めまい、心不全の症状として動悸、息切れ、浮腫などがよくみられる症状です。
サルコイドーシスでは、胸部X線、CT、血液検査等を行い、これらの検査で疑いがあるとき、さらに組織検査で確認するのが原則です。Ga(ガリウム)シンチグラフィーやPET検査も行われます。肺サルコイドーシスが疑われたときは、気管支鏡検査が行われることもあります。
心臓サルコイドーシスでは、さらに、心電図、24時間心電図(ホルター心電図)、心エコー、造影MRIが行われます。心臓サルコイドーシスと診断がついた方には、PET検査が保険診療のもとで行われます。(当院ではPET検査を行っていません。検査の必要があるときは、信頼できる医療機関をご紹介します)。組織検査は必要に応じて行われます。皮膚や筋肉に病変がある方はそちらから採取しますが、診断がつかないときは、カテーテルで心筋を採取します。
サルコイドーシスで炎症を起こしている部位に、通常のMRIに加えて造影剤を注射すると、少し遅れて造影剤が取り込まれます。より広く造影されるほど炎症の範囲が広く、重症といえます。
PET検査は、他の検査で心臓サルコイドーシスと診断がついたときに、炎症の広がり、活動性、多臓器の病変などを診断する目的で行われます。糖を注射するだけですので、安全性の高い検査です。高額ですが、保険診療の範囲内で行われるようになりました。左のカラー写真では黄色く光っている部分、右上の白黒写真では、心臓の周囲で黒い部分が肉芽腫の部分です。治療後、効果判定のために再度検査を行うこともあります。
※当院ではPET検査を行っていません。検査の必要があるときは、信頼できる医療機関をご紹介します。
心臓サルコイドーシスの診断でPET検査を行うとき、検査前に食事制限が必要になります。正常の心臓は糖分を取り込むため、24時間前から糖質の制限をします。そして、17時間前からは絶食となります。水分や薬の摂取に制限はありません。医師の指示に従って検査開始時間に合わせて制限をしてください。下記は、当院で行っている食事制限です。
心エコーは安全で痛みもなく、繰り返し行える検査です。この疾患の診断を疑うきっかけになったり、診断の決め手にもなる検査です。心臓全体の収縮の低下、一部心臓の壁が薄くなったり、時に厚くなったりします。僧帽弁閉鎖不全もよくみられる変化です。矢印で示している心室中隔が薄くなる所見は、この病気に特徴的な変化です。
心臓以外の臓器でサルコイドーシスと診断されていて、それに加えて心臓病変に関係するいくつかの所見を満たすとき、あるいは心臓の組織から肉芽腫が証明されたときに、心臓サルコイドーシスと診断されます。ですから、心臓サルコイドーシスが疑われるときは、必ず全身諸臓器のスクリーニング検査が必要となります。
他の臓器にサルコイドーシスが認められないときは、心臓の所見の組み合わせからだけで診断をすることになります。その場合の診断基準は、次のとおりです。
診断の手引きが発表されるまで「孤発性心臓サルコイドーシス」と呼ばれていましたが、磯部医師の提案で「心臓限局性サルコイドーシス」という病名に変更されました。
日常生活で特別に注意をすべきこと、逆にこれをしたほうが良いということはなく、一般の心臓病の方と同じ注意が必要です。心臓病の方は運動がとても大切です。病状に応じた運動強度は主治医と相談してください。
心臓サルコイドーシスは過剰な免疫が病気の発症に関わっています。原則として免疫を抑制するために副腎皮質ホルモンであるプレドニンを内服します。治療は比較的多量(1日30mg程度)から始めて、1か月程度をめどに減量していきます。その後も長期にわたって維持量の内服が必要です。再燃することもあるので、内服の期間や維持量については患者ごとに異なります。病初期からの内服が勧められます。プレドニン治療にもかかわらず、病状が進んでいく方にはご相談の上、別の免疫抑制薬を追加することがあります。
不整脈は、心臓サルコイドーシスでしばしばみられる合併症です。薬物だけで治療が十分でない場合もあり、症状に応じて、ペースメーカーや植え込み型除細動器の植え込みがすることがあります。頻脈に対しては心筋焼灼術(アブレーション)を行うこともあります。
サルコイドーシスは、合併症の程度、侵される臓器、経過や症状の度合いが人によって異なります。自然に、あるいは治療によって軽快、治癒する方がいる一方で、死亡される方も少なからずおられます。死亡の原因は、心臓サルコイドーシスである場合がほとんどです。ただ最近の免疫抑制治療、不整脈治療、心不全治療、弁膜症治療などの進歩により症状が軽減し、また救命される方が増え、生存率が向上しています。
サルコイドーシスは国が指定している特定疾患(いわゆる難病)です。診断書と申請書を提出し、認定されると、病状に応じて一定の医療費補助を受けることができます。しかし、現在の認定では2臓器以上の病変が基準となっていることから、生検組織で病理診断されていない心臓限局性サルコイドーシスの方は認定されないのが現状です。現在この診断基準を変更する方向で改定の作業が進んでいます。
房室ブロックや重症心不全の患者さんには、心臓サルコイドーシスが原因であることが少なからずあります。特異的なバイオマーカーがなく、他の心疾患に酷似していることもあり、診断の難しい疾患です。従来言われている程希な疾患ではなく、重症心不全の5%、房室ブロックでペースメーカーを植えた女性の1/3が本疾患であるという統計もあります。疑わしい患者さんがおられましたら、ご連絡ください。心疾患として、薬物療法、非薬物療法を組み合わせて総合的な診療が必要になる疾患です。経験のある施設での診療が望まれます。
当院では心臓サルコイドーシスの診療を積極的に行っています。2021年だけでも20数例の紹介初診患者さんの診療をしています。
診断が難しく、正しい診断をされていない方、適切な治療を受けてこられなかった患者さんもよく見かけています。診断に加えて、薬物治療(ステロイドや免疫抑制剤による免疫抑制治療、心不全に対する薬物治療など)、非薬物治療(アブレーション、ペースメーカーや除細動器の植え込み、心臓同期療法(CRT)、僧帽弁閉鎖不全に対するMitraClipや僧帽弁手術など)にも対応し、担当の磯部医師を中心に本邦でも最も多数の患者さんの診療を行っている施設です。
特に難治例や重症例での免疫抑制治療、アブレーション、僧帽弁のクリップ治療などでは、国内でも随一の経験を元に、個々の患者さんに最善の治療法を選択しています。
転医やセカンドオピニオンにも対応しています。受診をご希望の方は現在おかかりの医師からの紹介状とデータ(画像検査のコピーや血液データなど)をお持ちいただき予約をしてください。
医師向けの診療ガイドラインは、以下の通りです。
「心臓サルコイドーシスの診療ガイドライン」(2016年版)
作成班長:寺崎文生、班員:磯部光章、他
JCS2016_terasaki_h.pdf (j-circ.or.jp)
病気の情報は特定疾患情報、難病情報センターからも入手可能です。
サルコイドーシス(指定難病84) – 難病情報センター (nanbyou.or.jp)
倫理委員会の承認のもと、研究の成果は論文にして発表しています。同意と協力をいただいた患者のみなさまに感謝いたします。下記はその一部です。
◎英文論文
◎邦文論文・総説
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